テーマを絞った墓石
だから、フランスを「料理のおいしい国」と呼ぶには抵抗がある。
ついでに言えば、私が三年住んでいたアメリカも駄目である。
私は、来年春には、またイタリアに行こうと思っている。
「C、君のところは共働きだが、夜の食事の用意は大変だろうね」「全然、大変ではないわ。だって、料理はしないもの」「だけど、君は五時になると急いで帰るじゃないか。あれは家族の食事の支度をするためだろ」「違うわ。預けている子供を迎えに行くためよ」「でも、夕食の用意はするんだろう?」「料理というか何というか、冷凍庫の中にあるものを適当にレンジで温めて食べるのよ」「でも、ご主人も帰って来るだろう。彼はどうするのだい?」「彼も、同じように、冷凍庫をあさって、適当なものを食べているわ」「彼はお酒も飲むだろう?その肴はどうするの?」「酒を飲みたい時は、彼がテスコ(注”イギリスで一番大きなスーパー)で野菜のスティックか何か買ってきて、勝手に飲んでいるわ」「それで彼は文句を言わないの?」「どうして、文句があるのよ?」「じゃあ、朝は何を食べるの?」「朝は、シリアルヨーンフレークのこと)にミルクね。あるいは、トーストに紅茶。それに目玉焼ぐらいかな。勝手に調理して食べるのよ、私は子供を預けに行かなければならないし、忙しいのよ」Cも亭主のウィリーもシティで働いている。
この国の共働き夫婦では(いや、共働きでなくとも)、食事の支度や後片付けは奥さんだけの仕事ではない。
夫婦の共同責任だ。
ふだんの日は、どちらも仕事で疲れており、文字通りありあわせのものを食べて済ませるようだ。
カレンの話を聞いていると、イギリス人の食事に関する考えが分かる。
日常の暮らしの上での食事は、簡素で、空腹を満たすだけでいい。
毎日、違う素材で、違う料理を味わう必要はない。
イギリスには、シティでなくとも、共働きの夫婦は多い。
彼らの日常の食生活はなくてこのようなものだと思う。
そうした考え方をする人たちの国では、街のレストランの料理もおいしくなるわけはない。
料理に対する期待度も、要求度も低いからである。
日本の共働き夫婦なら、奥さんがいくら忙しくても、朝ご飯、晩ご飯の用意はするだろう。
それが、日本の働く主婦の負担を増している原因ではあるが、いろいろな素材に手をかけ、包丁で切り、刻み、味付けをし、煮たり、焼いたり、揚げたりして、家族の食事を作るのは、すぐれた日本の伝統と文化だという気がする。
ただ、イギリスの共働きの夫婦は、食事の用意や後片付けにあまり手間をかけないから、それだけ自由な時間が持てる。
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